タイの農業事情を語る時によく引き合いに出される、こんなジョークがある。
とある少数民族の村で、大量の農薬投下によってキャベツを栽培している男性がいた。
見かねたある人物が「そんなに農薬を使って大丈夫かい?」と訊ねたところこう答えた。
「全く問題ないさ。自分で食べる訳じゃないから」。
低農薬栽培による農作物を販売する店(タイ・チェンマイ県、チェンマイ大学内)
このジョークからはタイの一部地域における農業の現状が垣間見える。
タイでは農家という職業は、その大体が儲からない。
中でも一部の人々は生活の糧を得るために、生育途中で虫に喰われることのない、
市場に出して売れる状態の作物をどんな手段を使ってでもつくろうとする。
結果、大量農薬投下に頼ってしまう。
1年ほど前には、タイの市場で海鮮品が腐るのを防ぐため、それらの商品にホルマリンを
散布したうえで販売されていたことが発覚し、ニュースで大きな波紋を呼んだ。
タイで食の安全が叫ばれるようになってから久しい。例えば北の都チェンマイでは
定期的にオーガニック市場が開催されている。こうした「安全」な農産物の一大消費地が、
中間層および新中間層と呼ばれる、相対的に裕福な人々が多く住む都市部である。
彼らの間で無農薬・低農薬の有機栽培への関心は高まりつつある。しかし、たとえ政府が
奨励したくとも、収入に直結する収量の不安定さから、農家全体の経済力が底上げされない
以上はなかなかそこへシフトできないというのが現状であろう。
翻って日本の状況を見てみると、やはりタイと似たように、高価格・高品質の「安全」な
農産物を買い求める潮流がみられて久しい。こうした農産物を志向する消費者層は、ただ購入
するだけではなく、どこの農家がつくっているのか、といった情報も求める。
今やどこのスーパーに行っても、生産地の表記はもちろんのこと、契約農家の名前や顔写真も
だして、「安全」を売る光景が当たり前となっている。
事前取材の様子。眼前には広大な圃場がみえる
イベントで農業への想いを語る農家さん
私ががボランティアスタッフとして参加している「YUM! YAM! SOUL SOUP KITCHEN」
(以下、ヤムヤム)も、こうした流れに乗じて市場に食い込んでいるのは確かだと思う。
しかしながら、さらにそこから一歩進んだ展開も見せている。
それは消費者と生産者を「つなぐ」意識の高さにある。
毎回のイベントでは、必ず現地農家・官庁への事前取材を行い、それぞれの地方の
アピールポイントを綿密に研究する。イベント当日は食材を提供した農家や県自治体関係者を
招待し、彼らに農作物への思いを直接語ってもらう。
そして、どんな食材がどの料理に、どんなふうに使われているのかをヤムヤムでは
丁寧に説明する。食材がおいしいことはもちろんである。
いや、これだけの「手間」をかけた人の「想い」があるからこそ、おいしいのではないだろうか。
イベント内で毎回紹介するご当地食材の試食の様子
旬のこだわり食材をふんだんに使ったオリジナルタイ料理が多数並ぶ
生産者の「想い」、当日まで身を粉にして準備をするスタッフの「想い」。
こういった「スパイス」が加わった極上のタイ料理が味わえるヤムヤムの活動を、
ボランティアスタッフとして応援し、活動を国内外へ広く伝えていきたいと思う。
運営事務局・ボランティアスタッフ 斎藤俊介